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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)7327号 判決 1972年8月25日

原告

平野正男

被告

達富誠顕

主文

被告は原告に対し金一三万九二九〇円およびこれに対する昭和四六年八月三一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分しその一を原告の、その一を被告の、各負担とする。

この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  (原告)

(一)  被告は原告に対し金二五万八四四五円およびそれに対する昭和四六年八月三一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  (被告)

請求棄却申立。

第二当事者の主張

一  (請求の原因)

(一)  (事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受け、なおその際原告所有の自動車も損壊された。

1 発生時 昭和四五年一〇月一四日午前八時五〇分頃

2 発生地 荒川区東尾久一の三三の六先交差点

3 被告車 普通貨物自動車(足立四せ九九一六号)

運転者 訴外湯浅利雄

4 原告車 軽乗用自動車(八練馬け七四一七号)

運転者 原告

5 態様

原告車が通称熊の前大通りを北より南に向つて直進中、前記交差点を東から西へ走行してきた被告車に衝突された。右熊の前大通りは車道幅員一六・七米の片側三車線であつて、本件事故現場の南約七〇米先には通称明治通りとの交差点があり、原告車の進路上の一、二車線は本件現場の手前から渋滞しており、たまたま三車線目が空いていたので、原告車は時速約四〇粁で直進していたものである。一方被告車の出て来た道路は幅員三・七五米であり訴外湯浅は右方に対する注視不十分のまま、一、二車線の自動車の間から突如進行したため本件事故が発生したものである。

6 傷害の部位 左大腿下腿挫傷

7 原告車の損傷部位 左前部、左側面部

(二)  (責任の帰属)

訴外湯浅には、本件事故発生につき、右のように右方不注視のまま進行した過失があり、しかも、同人は被告の従業員であつて、当時被告の業務執行中であつたのであるから、被告は民法七一五条一項により、原告の蒙つた損害を賠償しなければならない。

(三)  (損害)

1 治療費 金一万一四〇〇円

2 原告車修理代 金一一万〇三五〇円

3 原告車の評価額 金五万円

4 原告車修理中、原告車の代わりに使用したタクシー代、電車賃(45・10・24~45・11・15分) 金四万三二〇〇円

5 慰藉料 金二万円

6 弁護士費用 金二万三四九五円

(四)  (結論)

よつて、原告は被告に対し金二五万八四四五円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四六年八月三一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める。

二  (被告の請求原因に対する答弁)

原告主張請求原因の第(一)、(二)項の事実は認めるが、第(三)項の事実は不知。

三  (抗弁)

本件事故発生については、原告の過失も寄与しているから、損害額算定にあたつてはこれを斟酌すべきである。

四  (抗弁に対する認否)

原告に過失があつたことは否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  (事故の発生および責任の帰属)

原告主張の請求原因(一)、(二)の事実はすべて当事者間に争いがない。これによると、被告は民法七一五条一項により、原告が本件事故により蒙つた損害のうち相当の範囲にあるか、または予見し得た範囲のものを賠償しなければならない。

二  (損害)

(一)  (傷害の部位・程度)

前記のとおり、原告は本件事故により左大腿下腿挫傷を受けたが、その程度は、〔証拠略〕によれば、原告は診療を受けた田端中央病院において、当初全治一〇日間との診断を受けていたが、仕事を休むことができなかつたため、事故当日の昭和四五年一〇月一四日のみ治療を受け、その後は診療を受けていないことが認められ、これに反する証拠はない。

(二)  (傷害に伴う損害)

1  治療費 金一万一四〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は右田端中央病院での治療に際し、金一万一四〇〇円の支出をしたことが認められ、これに反する証拠はない。

2  慰藉料 金一万円

前認定の如き、原告の蒙つた傷害の部位・程度によれば、本件事故によつて蒙つた原告の精神的損害を慰藉すべき額は金一万円が相当である。

(三)  (物損に伴う損害)

前記したように、原告車は本件事故により左前部および左側面部を損壊されたが、これに伴う損害は、次のとおりである。

1  修理代および代車料 金一一万〇三五〇円

〔証拠略〕によれば、原告は原告車を修理のため豊島区雑司ケ谷所在の訴外株式会社トーフジに依頼し、さらに予定された完成予定までの一、〇日間同社から代車を賃借りし、同社に対し、原告車の修理代および右賃借料の合計として、金一一万〇三五〇円を支払つたこと、ところが原告車は予定の一〇日間では修理が終らず、納入は結局昭和四五年一一月一〇日頃となつたことが認められ、これに反する証拠はない。

2  評価額 金三万円

事故車が修理を了えても売却の際には低く評価されてしまうことおよびその評価落ちの限度は修理代のほぼ三割程度であることは公知の事実であるから、前記認定によると、原告車は本件事故のため金三万円の評価損を受けているものと認められる。〔証拠略〕中には、約五万円程度の評価損の発生し得る旨の記述があるが、これのみでは、右認定を左右し得ない。

3  原告車の代わりに使用した交通費 金二万二九五〇円

〔証拠略〕によれば、原告は注文紳士服の卸を業としていたもので、本件原告車を使用して、下請の間をまわつたり、デパートに納入に行つたりしていたものであるが、修理期間である昭和四五年一〇月一四日から同年一一月一〇日頃まで使用できず、その間一〇日間は代車を利用したが、他の期間はタクシーと電車を利用したこと、タクシー等を使用していた期間中の一日当りの交通費支出は金一三五〇円位であつたことが認められる。これによると、代車を利用した期間を除く修理期間中の原告の使用した交通費は次のとおり、金二万二九五〇円と算出される。

1,350×17=22,950

これに対し、原告の供述中には、タクシー代等の交通費が一日当り金二二〇〇円余である旨の部分があるが、これは原告の従前の主張に照らしても信用できず、この他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

三  (過失相殺)

〔証拠略〕によれば、本件衝突現場付近は原告車の進行方向の車道は、衝突地点のずつと手前から渋滞していたが、原告は本件衝突地点の約五〇米先の明治通りとの交差点で右折する予定であつたため、この渋滞中の車両の右側の中央よりの部分を時速四〇粁前後の速度で進行していたこと、ただ、この中央よりの部分を走行していたのは原告車以外には殆んどなかつたこと(原告本人の供述によれば、原告車の前に大型車が一台中央よりにあり、本件現場付近ないしその手前の交差点で右折して行つたことが窺えるが、前記のような道路幅員からして大型車が同所まで渋滞車の右側を走行したものとはとうてい認め難い。)、衝突直前まで原告は被告車に気付かなかつたこと、衝突地点は中央線(白ペイント)より一・三米の地点であつて、してみると、車幅約一・三米の原告車は、中央線ぎりぎりの地点を衝突直前には走行していたこと、一方訴外湯浅は本件交差点を右折すべく、狭い道路から広い道路との交差点に進入するので、交差点の手前で一時停止したが、渋滞している車両のため進入できずにいたところ、右側から走行していた車両が二車線とも停止し、手で合図して道を空けてくれたので、止つてくれた車の前を時速四、五粁の速度で進行し、止つてくれた二台の他には右側からくる車両はないものと軽信し、左側に注意を奪われ、漫然と進行を続け、右側を見たと同時に原告車と衝突したものであることが認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

この認定事実と前記の当事者間に争いのない事実とによれば、原告車が中央線を越えてまで渋滞車両の右側部分を走行したことは認められないとしても、原告車が普通乗用車や大型車ではない車種のため渋滞車両と中央線部分との間を走行することができ、それでもそれはぎりぎり中央線に寄らねばならないような状態であつたことが明らかであり、このような状態の下で走行する車両としては、渋滞している車両の間から、渋滞車以外には進行してくる車両はないものと軽信して右側に対する注視不十分のまゝ道路を横断しようとする人ないし車両があることを予想し、左方に対して十分注視しながら進行すべき義務があるのであつて、原告にもこの注意義務を怠つたまま進行した過失が認められる。たしかに、本件交差点においては原告車の進行した道路の方が広路であつて優先通行権のあることは明らかであるが、被告車が横断を開始した事情および原告車が車幅が狭いことを奇貨とし、いわばぬけがけ的な走行をした事情に鑑みると、原告の過失の本件事故発生に寄与した度合は必ずしも軽いものでなく、前記認定の損害の性質を考慮し、その損害の三〇%を過失相殺するのが相当である。

そうすると、原告の被告に支払いを求め得る損害金は金一二万九二九〇円である。

四  (弁護士費用)

以上のとおり、原告は被告に対し金一二万九二九〇円の支払いを求め得るところ、〔証拠略〕によれば、被告が任意の支払いに応じないため、原告は、やむなく本件原告代理人に訴訟提起を委任し、第一審判決時に認容額の一割相当を報酬として支払うことを約したことが認められる。

しかし、本件訴訟の経過、認容額に照らすと、原告が被告に負担を求め得るのは、そのうち金一万円である。

五  (結論)

そうすると、被告は原告に対し金一三万九二九〇円およびこれに対する本訴状の送達の翌日であることの明らかな昭和四六年八月三一日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをしなければならないので、原告の本訴請求は右の限度で認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中康久)

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